音楽と出会う、ということ
少し話が逸れるが、筆者の音楽との出会いの事を書いてみようと思う。
筆者が初めに音楽に出会ったのは、中学生の頃だったのだと思う。近所のレストランで演奏していたプロのギタリストと縁あって、ギターの手ほどきをしてもらう機会を得た。もちろん、それまでにも色々な音楽的経験を得てきたとは思うが、きちんと音楽と向き合ったのはこれが最初だった。
実はその時間も1年ほどしか続かなかったのだが、その手ほどきの中で、先生の生活や趣向、そして音楽性を垣間見ることができた。質素な生活、木工が得意(独自の楽器を自作するほどだ)、ジャズギター(ジョーパスの教本も書いている)、クラッシックギター、そして本物のコーヒーの味も教えてもらった。こっちへ来ないか?(音楽家目指さないかの意)などと囁かれもしたが、当時の自分はさほど興味が沸かなかったように覚えている。
もう少し時間を遡ると、ドラムに初めて出会った時のことも思い出す。私の叔父なのだが、製薬会社に勤める傍ら、趣味ではあるがジャズドラマーとしても熱心に活動していた。有名なサンバチームにも所属していて、浅草サンバカーニバルの隊列に加わった事もあるそうだ。その叔父の家に行ったときに見た、ドラムセット。あの、子供にとって得体の知れない機材が、心の中に残っていたのは間違いないと思う。
高校に入学した私は柔道部で心身を鍛える傍ら、仲の良い友人が所属している軽音部にも出入りしていた。多分に漏れず同学年メンバーでバンドを組もうとなった訳だが、そこでなり手が無かった楽器、そう、それはドラムスなのだが、その話題が持ち上がった瞬間に心の片隅に残っていた楽器への憧れが花開いたのだろう。私は真っ先にドラマーとしての役割を引き受けた。
全くの素人で独学であったが、ドラムは日々上達していった。そんな中、別の同級生からもバンドに誘われて、掛け持ちで活動もした。あっという間に日常が音楽で染まっていった。
就職して社会人になった私は、プログラマーの道に進んでいた。高校の進路選択で音響技師になる希望も持っていたが、その道には進まなかったのだ。プログラマーの日常は過酷であったのだが、そんな生活の中での救いは、音楽だった。その頃はリスナーとして音楽を広げる事に躍起になっていたと思う。ヒットチャートを軽蔑しながらも耳は傾け、気に入った曲があればアルバムのクレジットを見て奏者から別のアルバムにアクセスしたり、スタンダードをアレンジ毎に聴き比べたり、自由なお金が増えたのでライブイベントにも足繁く通った。当時は未だネット配信が発達していなかったので、これが真っ当な音楽ファンの姿だったと思う。何にせよ、仕事の苦痛は音楽で癒やされた。癒やしといえば、この頃、ブラジル音楽好きの叔父にボサノバを教えてもらったのもよく覚えている。
ある時期、私は仕事に行き詰まっていた。比喩でなく、帰り道に足が一歩も前に進まなくなるくらい気持ちが落ち込む事すらあった。
そんな時に出会ったのが、ボーカロイドとネット投稿文化(※詳細は割愛する)だ。
その文化の始まりの頃のお祭りのような瞬間に、私も熱に浮かされたように作曲活動に手を染めていった。言ってしまえばそれは逃避行動であるのだが、心は救われた。
その出会いはそれまで自分の中で育てていた「自分の作品のイメージ」を形にする絶好の機会だった。今になってその頃の作品を聴くと、それは拙くて残念な出来映えではあるのだが、その中にあるエッセンスは十分に光る物があると今でも自信を持っている。
そして、そんな私と同じように”自らの作品の形”を表現できた人々と交流する機会を得る事が出来た。有り難い事にその交流の中で多くの仲間を作る事が出来た。
そんな仲間の一人に教えてもらったのが、この動画だ。
この動画こそが、Chiquewaと最初に”出会った”瞬間だった。
質素な部屋でセミアコを一人演奏するその姿に、中学生の頃に焼き付けていた最初の”音楽”のイメージが想起されたのは言うまでも無い。この動画を見て一発でChiquewaという存在に魅了された。
これは、ただ「観た」「聴いた」では無く「出会った」という話だ。
音楽という幅の広い世界で、何かの曲を好きになる時には、必ず聴き手のそれまでの人生、時間、時代、つまりは記憶がその引き金になる。J-Popが好きな人はその曲の背景となる時代と自分の経験がリンクしているはずだし、同じようにJazzギターという記憶を持つ私自身の音楽の背景を持ってしてようやくChiqewaに出会う事が出来たのだ。あの時に先生に出会い、叔父に唆され、そして多くの仲間に出会えたから、Chiquewaに、SasakamaStudioに、そしてこのアルバムにたどり着けたのだ。
コメント
紹介文のひとつひとつに作品への愛が詰まった素敵なレビューだなと思いました。じっくりと曲を聴きながら読ませていただきました。ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
曲を聴く切っ掛けになれた事が何より嬉しいです。